スタートアップ転職準備室

40歳になり、ジールス歴2年になりました:スタートアップ冬の時代と、スタートアップ人材についての偏った見解。

とうとう来たなこの時が!感と、全く実感がわかない狭間の状態なのですが、先日10月28日で40歳となりました。30歳の時もそうですが、二桁の数値の変化はなかなかグッと来るものがありますね。

そして昨日11月1日は、記念すべきジールスへ入社した日でもあります。光の速さで時が進むので、2年経った実感がこれまた全くわかないのですが、たしかに2年前にこのジールスに入社をしました。(入社した時は痩せてたなぁ・・・)

ほんとにこの2年間、たくさんのことがありました。少しだけ振り返ってみると・・・

大きな出来事をピックアップするだけでもこれだけのことが2年間には詰め込まれており、もちろんここには書かなかった(書けなかった)ことも含めるととんでもない経験値・経験量を得させてもらったと思ってますし、我々が掲げ、誇りを持って拡大し続けているチャットコマース市場も大きく成長を遂げてきています。

入社半年入社一年の節目にはこのような若干エモなエントリーをしてきたのですが、この2年を正直に振り返ると「なんとか生き抜いたなぁ」というのが本音です。入社半年後のエントリーで盛んに「生きてる実感」という言葉を使っていますが、「生きている実感」というのはすぐ近くに「対局の状態(=タヒ)」があるときにこそ鮮明に感じられたりするので、そういう意味でもスタートアップ人生を満喫できているのかもしれません。

とはいえ、スタートアップにおいて、(会社的にも個人キャリア的にも)生き抜く事自体がとても尊いので、「強くなったなぁ」とも思います。

スタートアップ冬の時代について

さて、話を戻します。いや、今一度大きく振ります。

最近、日経の「迫真」というコーナーで「スタートアップ冬の時代」という特集が組まれています。

詳細は本文を呼んで頂ければと思いますが、タイトルそのまま。今までのようなスタートアップバブル、SaaSバブルは沈静化し、採用やその他諸経費を切り詰めるスタートアップ、資金調達に奔走するがなかなか調達が難しいスタートアップが増えているぞ、という内容になっています。

実際転職エージェントと話をしていても数年前までは破竹の勢いで成長していた企業から人材流出が起こっていたり、各社の決算をみていてもなかなか厳しい現実だと認識しなければならないようなことは周囲で起こり続けています。(とはいえ、メディアには応援してほしいですけどね)

一方で、少し前にこんな記事もありました。

先の「迫真」の内容とは対局で、基本的にスタートアップへの追い風記事と認識しているのですが、皆さんの目を引いたのは「スタートアップに転職した54%が前職よりも年収が上がった」というところだと思います。実際近年上場するSaaS企業の平均年収が開示されると「え、平均年収が800万超えてるのかよ!」と目ン玉飛び出たこともありますし、そうした企業と転職市場で競合するわけで、当然我々のような企業も以前よりも高くオファーしなければならなくなっています(ちなみにこれ自体はなんら悪いことではないと思ってますし、優秀な人がどんどん参画してもらえる環境は整えていきたい)。

さて、今一度僕の周囲に目を転じてみます。上記のような全体傾向もあり、昨今の「冬の時代」を迎えるまでは、「スタートアップへ転職した!」「今一度新卒のような気持ちで頑張る!」という同期・同級生は確かに増えていましたし、「渡邊のブログ見て覚悟を決めたよ!」なんて嬉しい言葉を頂けたりもしました。

しかしながら彼らのその後を見てみると、引き続き八面六臂の活躍をしている人と、思うような活躍ができずとんと元気がなくなってしまう人もいる。渡邊の古巣出身者でも今なお光輝いている人と、あいつどうしたっけ?という人がいる。自分も含めて、の話になりますが、この違いはなんなのでしょうか。

メキシコの海岸沿いのコンサルタントの話

さらにさらに話を広げます。皆さんはこんなストーリーを聞いたことはありますでしょうか?

メキシコの海岸沿いの小さな村に、MBAをもつアメリカのコンサルタントが訪れた。
ある漁師の船を見ると活きのいい魚が獲れている。
 
コンサルタントは聞いた。
コンサル:いい魚ですね。漁にはどのくらいの時間かかるのですか?
漁師:そうだな、数時間ってとこだな。
 
コンサル:まだ日は高いのに、こんなに早く帰ってどうするのですか?
漁師:妻とのんびりするよ。一緒にシエスタを楽しみ、午後にはギターを弾きながら子供と戯れ、夕暮れにはワインを傾けながら妻と会話を楽しみ、それで、寝ちまうよ。
 
それを聞いてコンサルタントはさらに質問をした。
コンサル:なぜもう少し頑張って漁をしないのですか?
 
漁師は聞き返した。
 
漁師:どうして?
 
コンサル:もっと漁をすれば、もっと魚が釣れる。それを売れば、もっと多くの金が手に入り、大きな船が買える。そしたら人を雇って、もっと大きな利益がでる。
漁師:それで?
 
コンサルタントは答える。
 
コンサル:次は都市のレストランに直接納入しよう。さらに大きな利益がうまれる。そうしたら、この小さな村から出て、メキシコシティに行く。その後はニューヨークに行って、企業組織を運営すればいいんだよ。
 
漁師:そのあとはどうするんだ?
 
コンサルタントは満面の笑みでこう答えた。
 
コンサル:そこからが最高だ。企業をIPOさせて巨万の富を手に入れるんだ。
 
漁師:巨万の富か。それで、そのあとはどうするんだい?
 
コンサル:そしたら悠々とリタイヤさ。小さな海辺の町に引っ越し、家族とのんびりシエスタを楽しみ、午後にはギターを弾きながら子供と戯れ、夕暮れにはワインを傾けながら妻と会話を楽しむ。のんびりした生活を送れるのさ。
漁師はため息をつき、やれやれ、という顔で一言を付け加えた。
 
漁師:・・・・そんな生活なら、もう手に入れているじゃないか。

この逸話が言いたいことは「本当にやりたいことを明確にしないと、ものすごく遠回りしてしまうし、金儲けしなくても人生を豊かにすることはできる」みたいなところでしょうか。 僕はこの話を採用責任者時代に初めて聞いたのですが(30代前半)、強烈な違和感と共感を覚えたんですよね。

渡邊の感想は以下のようなものでした。

大きな船を買い、成長させ、仲間たちと上場までこぎつけた経験値をもって小さな海辺の街で過ごす人生と、最初から海辺の街で暮らす人生、どっちの人生が楽しいかと言われたら確実に前者である。

一生南の島の海岸沿いに住み続ける人生よりも(これはこれで素敵)、海賊王とともに世界を席巻したシルバーズレイリーのような人生を僕は選びたい。

スタートアップに転職しなくても、悠々自適な人生を送ることはできる。趣味のランニングに没頭しながら、そこそこ以上の収入で豊かに暮らすこともできる。がしかし、グランドラインに挑戦する海賊団のように、荒波に揉まれた航海人生を送りたい。冒険と戦いの日々の中で、勝利を祝ったり負けを悔しがったりしながら成長していきたい。そんな感情に襲われた(?)のがジールスに転職する半年くらい前のこと。

しかしながら、この感想と相反する自分もいました。

当時の僕にとっての「海辺の街での豊かな生活」「走ること」でした。ジールスに来る前は、仕事と同レベルかそれ以上のコミットメントで「走ること」に熱中しており、「どうせ仕事で成功した後もランニングはするだろう。であればまだ年齢が若い今のうちにトレーニングを積んだほうが速くなれる」と本気で思って走ってました(謎思考ですが、それくらいハマっていた)。結果的にフルマラソンも2時間41分くらいのスピードで走れるようにもなりましたし、そうしたスピードランナー×ITビジネスパーソンというあり方に気持ちよくもなっていました。

こうした目の間にある「海辺の街での豊かな生活」または「走ること」の魅力は途方もなくて、これを捨てることは非常に難しい。人によってこれがトライアスロンの人もいるだろうし、カメラの人もいるだろうし、アルコールの人もいるだろうし、夜街の人もいるだろうし、とにかくいろんな姿形を変えた「海辺の街での豊かな生活」が僕らの生活、人生の中にはあるんだと思うんです。

「自己啓発本で唯一参考になること」とスタートアップマインドセット

そろそろ話をまとめて行きます。僕は自己啓発本の類が苦手です(とはいえ若い頃は一時期拠り所になっていたこともあり、それなりに読んではいます)。「願望は紙に書くと実現する」とかを書いてしまってる本を見るとそっと本を閉じます(その主張自体は間違ってないと思うんだけど、得てして堂々とそ主張する本はだいたい怪しいし、何らかのプログラムへの誘導があったらぽいっと捨ててしまう)。

しかしながら、ジールスへ転職する際に参考にしたというか、大事にした考え方があります。それはナポレオン・ヒル(これ系自己啓発の筆頭のおじさま)の書籍でもよく書かれていることで、ナポレオン・ヒルの成功6か条みたいなものでまとめられたりもしているのですが・・・(繰り返しになりますが、勧誘込みの自己啓発本は怪しいと思っているスタンスを取りながら紹介させて頂きます)

  1. あなたが実現したいと思う願望を「はっきり」させること。
  2. 実現したいと望むものを得るために、あなたはその代わりに何を「差し出す」のかを決めること。(この世界では代償を必要としない報酬など存在しない)
  3. あなたが実現したいと思っている願望を取得する「最終期限」を決めること。
  4. 願望実現のための詳細な計画を立てること。そしてまだその準備が出来ていなくても、迷わずにすぐに行動に移ること。
  5. 実現したい具体的願望、そのための代償、最終期限、そして詳細な計画、以上の4点を紙に詳しく書くこと。
  6. 紙に書いたこの宣言を、1日に2回、起床直後と就寝直前に、なるべく大きな声で読むこと。この時あなたはもうすでにその願望を実現したものと考え、そう自分に信じ込ませることが大切である。

この中で圧倒的に難易度が高いのは、太字で書いた②なんですよね。願望をはっきりさせることも、期限を決めることも、紙に書くことも、やろうと思えばさほどの困難なくできるのですが、「何を差し出すのか?」を決めることは多大なるストレスを伴います。

スタートアップ転職を成功させるために、あなたは何を差し出すのか?

これが超重要なクエスチョンだと思ってて、僕は今までのキャリア(働きやすい職場、仲の良い気心知れた職場のメンバーなど)と収入(機会費用も低めて、入社時はぐっと我慢)、そして走ることを犠牲にしてジールスに参画しました。

スタートアップの収入が上がったという先のデータは非常に喜ばしいことですが、それは「何を指し出すのか?」を自分自身に問う機会を失うことでもあるかも知れません。現に先程の僕の知人の中でも、スタートアップ入社後活躍されてる方はこの質問を自分に投げかけ、相当な覚悟を持って参画された方が多いような気がします。

逆に「ルフィ海賊団のような、荒波に揉まれるような青春を取り戻したい」という感覚だけでスタートアップに転職してしまうのは非常に危険だと思うようにもなりました。冒険にリスクはつきもの。きちんと「差し出すもの」を決めることこそが「スタートアップで活躍するマインドセット」の第一歩なんではないかと思います(念の為、特定の誰かを言っているわけではありませんし、闇雲に年収を下げようという意味でもありません)。

なぜ入社2年が経って、これを書くのか?

スタートアップは本当にとんでもない成長速度で成長する時があります。僕は入社して半年くらいでその「超成長期」を迎え、オフィスも良いところ(雅叙園)に移転し、入社一年が経つ頃には人数も僕が入社したときの4倍以上に膨れ上がっていました。

この角度での成長はまさにスタートアップらしいところではあるんですが、放っておくと規模はやはり安心感を生みますし、妥協を生みます。日本から世界へ挑戦するためにも、ここで安心・安定を求めている場合じゃない。

当然、チャレンジのためにも一定以上の基盤は必要なんだけれども、そこに所属する個々人の脳内スタンスは、やはりスタートアップのままであり続けなければいけない。そういう意味でも、今働いている人にこそ、そして今の自分にこそ「何を指し出すのか?」が重要なんだな、と改めて思っています。大事なものを差し出すことは憂鬱極まりないのですが、そんな時は、サイバーエージェントの藤田さんの言葉を思い出すとぐっと勇気が出ます。

スタートアップが冬の時代を迎えたというのは、こうした側面からするととても良い機会だとも思います。スタートアップが冬の時代に、スタートアップに来れる人。スタートアップが冬の時代に、まるで真夏かのようにコミットできる人。そうした覚悟を持った人が(これは既存社員も新入社員問わず)数年後の春の時代の中核をなす人物なんだと思います。

ということで、ジールス3年目も引き続きいろんなものを差し出しながら、冬の時代も何のその。日本から世界をぶち上げるために、引き続きビジョンと成果に集中していきたいと思います!ジールスの皆様、3年目もよろしくおねがいします!一緒にでかいコト成し遂げていきましょう!

※スタートアップにもいろんな型があると思うので、上記はあくまで渡邊の解釈の話、として解釈頂ければ。

追記:差し出さないと、面白くない。

ちょっと、書き足します。

僕が入社してすぐ、ジールスは上場準備を加速し(つまり僕が入社する前から準備を進めてくれていた)、入社一年後には上場承認がおりました。

シンプルに、実感がなかったです。自分ごと化する努力もしましたし、承認が得られるよう努力もしました。しかしながら、僕には歴史がなかったし、だからこそ嬉しくもなかった。改めて「俺は上場後の成長を担う人材である」と自己再認識させる努力が必要でもありました。

そういう意味で、イージーに手に入る成功なんて、やっぱり面白くない。死ぬほどもがき苦しんで、ようやく手に入れてこそ、幸せを感じれるし、心の底から笑えるなと思うのです。冬の時代?上等じゃないですか。すべてをはねのけてぶち上げてやりましょう。

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