サイバーエージェント大好きシリーズ

サイバーエージェント史上最も成長に貢献した人事施策「あした会議」とは?

個人的な見解ですが、数多くあるサイバーエージェントの人事施策・会議体のうち、もっとも同社の成長に貢献したものが「あした会議」なのではないかと思っています。サイバーエージェントの統合報告書にはその効果推測値が掲載されていて、

2006 年に開始した「あした会議」で設立が決まった子 会社数は27社。それら新規事業から累計売上高約 2,000億円※、営業利益約300億円※を創出し、事業拡大に寄与しています。

このようにとんでもない貢献をしてくれている会議体になっています。ちなみに統合報告書には「新規事業を創る仕組み」として紹介されていますが、個人的には新規事業以上の効果・効用があるものだと解釈しています。

サイバーエージェントの人事施策は、「それはサイバーエージェントだからできるんだよ」と言われることが多いのですが、こちらの会議体はルールもシンプルでスタートアップでの活用可能性も大きいものだと思っているので、言語化させてもらいたいと思います。

サイバーエージェントの「あした会議」とは?

一言でいうと、サイバーエージェント役員対抗の戦略提案バトル、です。藤田社長を抜いた7−9名の役員が、4-5名ずつ社内のエース格社員をアサインして、サイバーエージェントが変えている課題への解決策や、新規事業・新規会社の提案を行う合宿型の会議体です。

あした会議のルール

最近ではオンライン開催も実施されているようで、僕が把握しているところからさらなる進化を遂げていると思いますが、基本的なところは以下に整理できるかと思います。

  1. 役員一人ひとりがリーダーになる
  2. リーダーが数千人いる社員の中から4,5名ずつ、ドラフト制で指名してチームを組閣。
  3. 1チーム3案、会社の抱える課題を解決するソリューションや、取り組むべき新規事業を提案する
  4. 提案時間は数分。何を、誰が、なぜやるのか?をシンプルに提案する。
  5. 思考する期間は約1ヶ月。チーム組閣から約1ヶ月後に泊まり込み(1泊2日)の合宿で提案合戦がなされる。
  6. 審査するのは代表の藤田さんのみ。1-15点満点で評価することが多く、ある一定の得点以上になると「実施」となる。
  7. 各チーム3案それぞれの点数が合計され、最終的にランキングされ社内外に発信される。

開催されるタイミングや外部環境によって多少ルールは変化すると思いますが、これが基本フレームになっています。

「あした会議」の秀逸なポイント

この会議体が秀逸だな、と思う点は多々あるのですが、あえてポイントを絞り込むと以下の用になるかと思います。

  1. 役員だけでなく、社内のキーマンが集まっている
  2. 内容が参加者にしか公開されない
  3. 藤田さんのみが判断している
  4. フォーマットがシンプルである

それぞれ説明したいと思います。

役員だけでなく、社内のキーマンが集まっている

社内のキーマンが集まっているので、会議体で決まったことが絵空事で終わることが殆どありません。よくある経営会議の失敗として、「やるべきだと思ってジャッジしたが、よくよく調べてみると実行できる人材がいなかった」とか「今のリソースではその取り組みを実施し始めるのは一年後になってしまう」というようなことが起こりがちなのですが、この会議体においてこのようなことはほとんどないのです。

キーマンが参加しているので、上にも書いた通り「何を、誰が、なぜ?」の3点セットを決めきることができる。やることとやる意義が決まり、それを誰がやるか?というリソースさえ確保できれば、HOWの部分は後からでもなんとかなります。しかし「誰?」が決まっていないと、責任の所在が不明になり、その意思決定が宙に浮いてしまうことになるのです。

またこちらのインタビューでも現役常務執行役員である山田陸さんがコメントしていますが、

「あした会議で決まったから」と言えば、それは全社員にとって、ありになるんですよね。単に役員だけが話し合って決まったことではなく、全員ではないとはいえ社員が参加しているというのが大きいなと思います。社員が議論の場に参加して、また人の異動を伴うことも、会議に参加している上長が承認して、そしてみんな自分の部署の利益だけ考えているのではなく、会社の未来にとってベストな決議をしている、という。あした会議というものを形成したことがサイバーエージェントにとって大きいのだなと思いました。

このように意思決定に対する納得感が生まれるのも、このルールがもたらす効用なのではないかと思います。

内容が参加者にしか公開されない

経営に関する重要な情報の共有や、意思決定がなされるため、基本的に会議の議事録などは公開されません。最近は何でもオープンにすることを是とするスタートアップもあったりはしますが、正直そのスタンスには賛同するものの、全てをオープンにすることは不可能だと思っています。

もちろん、意思決定された事業を推進する人材にはその意思決定は共有されます。しかしながら、それ以外の情報は殆ど共有されない。逆に言えば、参加者のみが超重要な経営情報にふれることができるわけです。

こうすることで、参加者は死ぬ気で頑張ります。ドラフト制ですので、今回アサインされたとしても結果を出せなければ次回アサインされないかも知れない。アサインされなければ重要な経営情報を共有されることがなくなるわけですから、参加者は必死です。

役員8人+5人のリーダー=40名程度が集まるこの会議体に参加できるかできないか。これがサイバーエージェントでリーダーとして活躍できているかどうかの一つの判断基準、目安になっているのです。

実際常連化している優秀社員はその後取締役や執行役に昇進していっておりますし、僕のように呼ばれたり呼ばれなかったりする社員もいたりします(苦笑)。

一方で呼ばれていない社員もまた、次こそは自分をアサインしてくれ!と自分をアピールします。もちろんアピールする材料が必要ですから、日々の仕事でのモチベーションにも繋がってきます。本当によくできた設計ですよね。

藤田さんのみが判断している

個人的にはこれが最も特徴的で、重要なポイントだと思います。

この会議体は、ある種独裁的に藤田さんがすべてをジャッジしています(独裁感は全くありませんが)。そういう意味で、経営会議体としての公平性には全く掛けている施策でもあるのですが、だからこそ強力だと思います。(公平性、客観性を担保する会議体は別にあることが前提で成立すると思いますね)

これについては以前別のインタビューでも回答させて頂いたのでそちらを引用させて頂きます。

渡邊:簡単に言うと、僕ら一般社員は「あした会議」を通して、藤田社長の判断軸をトレースすることができるんですよ。提案活動を通して「あ、今の藤田社長の課題意識ってここなんだな」とか「そんなところまで考えてるのか」ということがわかる

単純に社長スピーチでそれを伝えるより、提案活動に対するフィードバックでそれを伝えられたほうが明らかに浸透圧が高い。しかも、あした会議に集まっているのは、その時その時のエース社員ばかり。彼らがあした会議を通して、社長の思考=OSをインストールして帰るもんだから、これはワークしますよね。

(中略)

諸戸:藤田さんからするとあした会議ってひょっとしたら、そこで何か事業が生まれることよりも育成かもしれないですね。育成というか浸透というか。

渡邊:メッセージ伝達機会の側面はあると思いますよ、やっぱり。これ、めちゃくちゃ浸透率高いですよ。会議というか提案合戦なんですけど、終わった後に凄く手厚くフィードバックをしてくれる。20案以上出てきてそれを一個一個細かくフィードバックするんですよ。

そのフィードバックって、藤田晋経営学の叡智、みたいなもので、参加者はめちゃめちゃメモるわけですよね。そうして、社内にはオープンにされていない秘蔵の情報みたいなのをその場で共有されるんですけど、集まっているのはエース社員ばっかりなので、自ずと何らかの形で広まっていくんですよね。

一度出ると、この情報があるとないとで全然違うねってなって、次も呼ばれたいし、次も呼ばれるためにもバリュー出さないといけないのでみんなコミットするんですよ。役員というより社員が凄く頑張っているというのもあると思いますね。

要点をまとめると、

  1. 藤田さんにジャッジを集中することで、藤田さんの思考をトレースできる
  2. 藤田さんとの打ち合い、FBを通して、自分のベクトルを経営(社長)に合わせることができる
  3. その感覚があるかないか、でサイバーエージェントでの人生が大きく変わる事がわかっているので、結果的にコミットする

このような形になると思います。

ちなみに昔は役員全員が審査に回っていたのですが、2010年開催くらいからこの形式に落ち着きました。当時の藤田社長のブログを見てみると、複数役員で行うと「審査」になってしまい、「決議」にならない、という点もあったのかも知れません(ちなみにこのブログは読み返してみると必読)。

経営会議は審査ではなく、決議。この点も心に止めておきたいポイントです。

フォーマットがシンプルである=スタートアップでも活用しやすい

最後のポイントはこちら。上に挙げたようにルールはとてもシンプルです。経営会議だからといって、わざわざ難しくする必要はない。

またシンプルにすることによって生まれた効用は、あした会議のローカライズ版がそこかしこで生まれたこと。広告事業部版あした会議、とか、メディア版あした会議、と同じフォーマットで各部署で行われるようになり、それぞれのセクションマネジメントに生かされていったのは非常に興味深いことでした。

全体のあした会議は上述してきたように効果的なわけですが、その参加者が各部署に持ち帰って小さなあした会議を行うことによって、結果的に経営のメッセージの浸透圧が高まっていく・・・これがサイバーエージェントの最重要施策である、と僕が思う理由です。

「あした会議」の効果・効能

以上、サイバーエージェントの「あした会議」について、僕なりの解釈でまとめてみました。最後にこの会議体の効果・効能を整理して終えたいと思います。

  1. 役員+キーマンが参加して決めるから、納得感が高く、実行力が伴う
  2. 参加者だけが藤田社長の課題意識をキャッチアップでき、議論されている内容を把握することができるため、参加者のモチベーションが異常に高い
  3. フォーマットがシンプルで転用可能なため、結果的に経営の意識が全社に浸透する

まだ弊社ジールスはあした会議を実施するほどのサイズには至っていませんが、300人を超えてきたくらいからは実行を検討をして良い施策だとも思っています。楽しみ。

それでは、本日もありがとうございました。明日も良いスタートアップライフを!