スタートアップのための書評

スタートアップ的に「転職2.0」の大事なところをまとめてみる。

最近LinkedInがようやく(本当にようやく)日本でも盛り上がりを見せてきており、ビジネスSNSを作っていた身としては「遅いよほんとに・・・」と思うこともなくはないのですが、そんなLinkedIn日本代表である村上さんの著書「転職2.0」を読んでみました。

僕自身は、転職の際にこの手の「転職本」を手にすることはなく、自分なりの考えで退職・転職フローを進めていました。したがって、「この本が参考になったんだよ!」というレビューは正直難しい。ごめんなさい。

一方で、現在はスタートアップ側で採用の設計や面接を担当している身だったりもするので、転職者の皆様が本書からどんな情報をインプットしているのか?が気になりますし、「書いてることって実際どうなの?」みたいなところを検証してみたいと思って手にとってみました。

ちなみにアマゾンで「転職」と検索すると、こちらの本とワンキャリアの北野さんの著書「転職の思考法」が出てくるので、今回は双方を併読して、それぞれまとめて見たいと思います。

本書のすべてをサマリーすると言うよりは、スタートアップ的な観点から気になるところ、勉強になったところをコメントを交えながら整理していきます。

ちなみに言うと、個人的には転職の思考法より転職2.0のほうが勉強になりました。情報量も多い印象で、賛同できる部分も多い(転職の思考法は小説形式なので要約した場合の情報量は少ない)。しかしながら小説形式もそれはそれでなかなか面白かったので、どちらも購入することをおすすめします(謎の上から目線)。

転職は「自分株式会社の時価総額を上げるための手段」である

本書は、最初から超重要な情報から始まります。

会社の寿命よりも個人の労働寿命のほうが長くなり、人が人生において何度も転職を経験するのが当たり前になるこれからの時代は、転職の目的は転職自体であってはなりません。

上位の目的は、「自分株式会社の時価総額の最大化」であり、転職はその手段と捉え直すべきだというのが、転職2.0の軸になります。

昔から「自分を商品と見立ててキャリアを考えよう」「株式会社じぶんの社長の意識で人生を考えよう」というようなことは言われていたし、目にもしてきましたが、転職を「自分株式会社の時価総額の最大化のための手段」としたのは普通に目から鱗でした。

単に会社や商品に例えるだけでなく、その時価総額を上げにかかるための思考法。それが転職2.0。

成長途上にあり、かつ自分の興味のある仕事をしている会社に飛び込み、5〜10年のサイクルで転職を重ねていくのが、最も市場価値を高める方法だと考えられます。

時価総額という切り口が加わると、投資して成長のために凹ませる(S字カーブ)の考え方が生まれますし、商品のライフサイクルに則って自分自身のキャリアを刷新していく(ピボットしていく)ことが重要であることも理解がしやすい。一方で、同じ会社に居座って(同じ商品だけを世の中に提供して)、衰退していっていることに気づかずにいることの恐怖も同時に生まれてきますよね。

この視点を手に入れられるだけでもお値段以上の勝ちがあるんではないかなと思います。

自分の市場価値を上げるために「タグ」をつける

本書では市場価値の高め方として「タグ」という概念を提唱しています。「転職の思考法」では「ラベル」という概念で紹介されているそれですね。簡単に言うと、「あなたを識別するための札」みたいなものでしょうか。これが本書ではかなり細分化されて紹介されており、参考になります。曰く、

□市場価値を上げるための5つの転職タグ

  1. ポジション(役割)
  2. スキル
  3. 業種
  4. 経験
  5. コンピテンシー

上記5つで自分を整理・分類し、組み合わせることで自身の市場価値を高めましょう。足りないタグがあれば、転職して新しいタグをゲットしていきましょう!というのが(乱暴ですが)本書の提唱する市場価値の高め方になります。

渡邊大介の市場価値を構成する転職タグと、JV失敗から学んだビジョンの重要性

僕も試しにやってみました。

ポジション 法人営業、事業責任者、採用責任者、JV取締役、など
スキル プレゼンテーション、ファシリテーション、提案営業、アライアンス、マーケティング戦略立案、事業戦略立案、など
業種 インターネット広告、HR SaaS、チャットボットサービス、など
経験 単月数億レベルの広告案件の提案と実行、ビジネスSNSサービスの起ち上げと失敗、新しい採用手法の発明と実行、リクルートとのジョイントベンチャーの起ち上げ、など
コンピテンシー 達成思考である、集中して深ぼることができる、企業や商品の魅力を最大化するプレゼンができる、サイズに問わずセミナーや勉強会を実施することができる、など

これだけ見るとそこそこすごい人に見えなくもないですね(笑)実際、整理してみて気づくこともあります。

ちなみに僕自身はあまり自分の市場価値を上げるということに興味がない人間です。というのも、前職(JV時代)に取り掛かる前はまさにキャリア志向が強く、

新卒時代から大手クライアントの広告戦略に携わり、デジタルを基軸としたマーケティング思考が身についた。そのマーケティング思考を生かし、今までにない採用戦略を立案・実行し、大きな成果を出してきた。元々提案は得意であり、採用責任者時代に学生に向けて毎日のようにプレゼンすることでその力はさらに高まった。

ここで日本初となるサイバーエージェントとリクルートとのJVを自ら起案しプレゼンして設立の判断を勝ち取り、自身が起案したサービスを自分のマーケティング力と提案力で世に広げることができれば俺のキャリアの完成が見えるのではないか!SNSのフォロワー数も活かして僕自身がエバンジェリストになっても最高だね!

上記のような考えを持っていたんですが、大いに失敗しました(JVが、ではなく、自分のキャリアとして。ちなみにJV自体は今も後任の皆様の手によって順調に成長しております)。ここでは詳細に触れることはしませんが、こうして打算的にキャリア開発に取り組んだ結果いろいろとありまして(ある種のショック療法)、僕が本気で求めている状態目標やそれを実現するための働く会社の条件が鮮明になりました。それは、

(僕が求めているのは)一生懸命になれる環境であり、その中でおじいちゃんになっても若手のスタートアップに必要とされるような素養(スキルやマインドセット)を身に着け、死ぬまでイノベーションの爆心地・震源地にい続けエキサイティングまみれの人生を送ること、である。

そのためにも壮大なビジョン、愚直な戦略と実行、それを強力に推進する経営者がいる会社で働きたい。

ある種の痛い目を見ながらも見出した結論なので、もうブレることはなく、今や一心不乱に働くことができています。やはり何にも先んじて自分のビジョンが大切ですね。そういう意味では、こうした気づきを得るためにも、こうしたタグ整理は重要なステップかも知れません。巻末に掲載されているタグ分類表はとてもためになると思います。

転職2.0的良いベンチャーの見極め方

スタートアップ的には、本書P.186に書かれている「いいベンチャーを見極める4つの視点」は見逃せません。4つと言いながら、実は5つなんじゃないかと読んでて思ったので、僕なりに5つの視点として整理させて頂きます。

  1. 置かれている市場:その会社が置かれている市場は伸びているか?(市場価値は衰退市場で磨かれることはない、磨かれにくい)
  2. VC(ベンチャーキャピタル):イケてるベンチャーキャピタルが投資しているか?(イケてるVCが投資しているということはそれなり以上のビジネスモデルや経営陣であるということの現れ)
  3. プロダクト:自分で使ってみて良いプロダクトだと思うか?同じ用に感じる人はどれくらいいるか?(簡易的なPMF調査をしてみることで今後の成長性のヒントになる)
  4. ビジョン・ミッション:ビジョン、ミッションに共感できるか?(フィットしない会社を選んではならない)
  5. 経営者:経営者だけが目立っていないか?経営者に共感できるか?(経営者だけが目立っているベンチャーは危険。きちんとチーム経営ができているかを確認する)

ジールスは良いベンチャーか?

こう整理すると、我々ジールスに当てはめて考えてみたくなりますね(笑)試しにやってみると、

①置かれている市場は今後十年〜に渡って伸び続けるロボット市場に立脚しています。少し遠い未来だと思っているので、その遠いが確実に来るであろう未来に対してリアリティのあるチャットボット市場からじわじわと積み上げています。

②ジールスに出資してくれている企業様は、超イケてますね!本書でイケてるVC例として紹介されているジャフコ、YJキャピタル(現Zベンチャーキャピタル)の両社から出資頂いていますし、日本を代表する広告会社(サイバーエージェント、博報堂、電通、フリークアウト)からも出資頂いています(順不同)。

ちなみに4/1の資金調達について、僕は真横でその様子を見ていましたが、プロの目利きに耐えうるビジネスモデルであるか、経営陣であるか、会社の状態であるか・・・これらをクリアするのは本当に大変です。こうした大型の資金調達をやってのける会社は、少なくてもその時点ではそれなりの信用力を有していると考えて良いと思います(もちろん未来はわかりません)。

③プロダクトは結構難しいですね。僕らはB2Bでビジネスを展開しているため、そのプロダクトの優劣を見極めるのは非常に難しい。しかしながらジールスは世界18ヶ国から強力なエンジニア集団を組閣しており、日本有数の体制で開発できていることは間違いないと思います。

④ビジョン・ミッションについては、これほどビジョンドリブンな会社を見たことがないと言うほど、ビジョンに導かれた会社だと思います。こちらについてはぜひ下記記事もご覧ください。

⑤経営者。色んな所で自慢してしまってますけれども、ものすごい可能性を秘めた経営者だと思います。また少し前までは、彼が全面に目立っている企業だったと思うのですが、既にその段階は越えつつあり、チーム経営にほぼ移行が完了したフェーズだと思います。また個人的には一定量、経営者のエゴはあって然るべきだとも思っており、そういう意味で良い塩梅なのではないかと思ってます。平時と戦時で違うし、PMF前なのか後なのかによってもここは違うと思いますね。

上記の通り、ジールスは良いスタートアップであると言い切ることができると思うので、ぜひ転職を検討されている方は僕のLinkedInまでご連絡ください!(笑)

 転職後に活躍するために:セルフオンボーディング

本書では目立った項目として書かれているわけではないのですが、転職後に活躍するための心構えもそこかしこで記載がされています。ここはかなり共感値が高く、転職直後に成果を出すためには、

  1. 期待値:自分の求められている役割を明確にする
  2. 短期決戦:入社3ヶ月を目安とする
  3. スモールサイズ:小さな成果で良い
  4. 脱プライド:わからないことは、とにかく聞く
  5. 社内ネットワークの構築:入社直後はスターモードなので、とにかく社内人脈を構築する

上記を意識することが肝要であると書かれています。大賛成ですね。

期待値や求められている役割は上司ときちんとすり合わせる。できれば人事や社長ともすり合わせたい。

サイバーエージェントでも「初動・初速が大事」と言われているけれども、小さくて良いので3ヶ月以内に(試用期間内で)結果を出すこともプロとしてきちんと意識していきたい。ちなみに合わせてこちらのサイバーエージェント曽山さんの動画も参考になるのでぜひ観てください。

あとは社内ネットワークづくりも本当に大事だと思いました。僕よりも少し前に笹原(通称:ささ)というボードメンバーが入社してるんですが、彼の社内ネットワークの強固さは僕と入社が数ヶ月差とは思えないほど。彼の予定を見てみると、めちゃくちゃ1on1をしてるんですよね。恐れ入ります。

スタートアップはまだ小さな人間関係で成り立っているので、ここを億劫がらずにやりきるのは、その後の数年に間違いなく行きてくると思います。まだ転職してからこうした動きが取れていない方はぜひやってみましょう!

まとめ:その他にも転職に関する内容盛りだくさん

以上、スタートアップへの転職に参考になる部分を抜粋してコメントしてみました。非常に的を得ていて、即効性のあるナレッジだと思います。

また本書ではその他にも、面接で有効なプレゼンの方法や中長期を意識した会社の辞め方、ゆるいネットワークづくりの重要性など、知っておいて損はない内容が詳細に書かれておりますので、ぜひ手にとってみてください。

 

最後に。村上さんは僕からするとIT業界の大先輩であり、もちろん昔から存じ上げている存在でした。ICCなどで前でお話されている様子を拝見したりもしており、「この人は天才肌なんだろうな」とも感じていました。そんな村上さんに親近感を感じる一節がありました。

実を言うと、私は完全なゼロイチは苦手であり、0.1を10や100にするのが得意な人間です。その自覚もあったため、突飛なアイデアを出したり、イノベーティブな発明ができる人と意図的に組んで仕事をしてきました。

外から見える村上さんは完全に0→1人間。そんな村上さんでも冷静に自分を分析し、そのための打ち手を打っているんだなぁ、と。勝手にシンパシーを感じました。

村上さんと比較するのはおこがましいにも程がありすぎるのですが、僕も破天荒に見えたり、我が強いゼロイチ人材と見られがちだったりするのですが、完全なフォロワータイプです。強いリーダーが居て、その横で力を発揮するタイプ。前で話すのは得意なので、リーダーの思いをスプレッドするのが得意だったり、戦略をワンフレーズで言い当てて推進したり、アイデアでスピードアップするのとかは得手とするところなんですが、自分自身が大組織を作れるか、0から何かを生み出せるかと言うとだいぶ怪しい。

そんな勝手に共感してしまった村上さんがP.247で投げかけた質問を持って今回のエントリーは閉じたいと思います。

(そのキャリアチェンジに)

今後10年を投じる価値はあるか

シニアがスタートアップに転職することは、大きな責任が伴います。めちゃくちゃ期待されているはずです。そしてその責任を遂行するためにかかる時間は、僕くらいの年齢やキャリアだと5-10年はかかるはず。それくらいの時間を掛けてまでやりきる覚悟はあるのか?

YESと言い切れるくらいまで思考することはとても大事だな、と思います。

それでは、本日もありがとうございました。明日も良いスタートアップライフを!

渡邊への質もは こちらから