スタートアップのための書評

スタートアップ的に「転職の思考法」の大事なところをまとめてみる。

転職本レビューを2冊同時にしてみようということで、アマゾンで人気の2冊の転職本を読み込みました。1冊目の「転職2.0」に関する書評はこちらからどうぞ。

スタートアップへ行こう!
スタートアップ的に「転職2.0」の大事なところをまとめてみる。
https://www.tostartups.com/tenshoku2-0
最近LinkedInがようやく(本当にようやく)日本でも盛り上がりを見せてきており、ビジネスSNSを作っていた身としては「遅いよほんとに・・・」と思うこともなくはないのですが、そんなLinkedIn日本代表である村上さんの著書「転職2.0」を読んでみました。https://www.amazon.co.jp/%E8%BB%A2%E8%81%B72-0-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%96%B0%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB-%E6%9D%91%E4%B8%8A-%E8%87%A3/dp/4815608032?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83…

本作の著者はNewspicksなどでもよく拝見するワンキャリアの北野唯我さん。その北野さんの転職に対する考えを小説形式で伝えてくれています。

個人的にはビジネス小説は回りくどいものが多く、「ぶっちゃけ要点だけ掻い摘んで教えてくれればいいんだけど」と思ってしまう機微も風情もないタイプではあるのですが、本書は以下2つの点で「買い」だと思いました。

  1. 要点をP.244-258にまとめてくれている(ぶっちゃけ本書の内容はこれでOK)
  2. 小説自体もなんなら普通に面白い

時間のない方は巻末のまとめだけ読むだけでためになるし、お時間のある人は小説をじっくり味わうのも良いと思います。ちなみに本書はオーディブルで音声化もされているので、耳で楽しむのもGood。僕はランニングの時に2倍速で聞いています。

「転職2.0」「転職の思考法」に共通する思想

本書のまとめに入る前に、改めて人気の転職本2冊を読んで感じたのは両者に感じるスタンスです。「転職2.0」の村上さんはLinkedIn、「転職の思考法」の北野さんはワンキャリアとどちらも転職を促す側、人材の流動性を高めたいというモチベーションのある人達であることはきちんと理解しつつ、彼らは「転職=善」の世の中を作りたい、そうした考えが日本経済を良くするんだ!という考えを持っています。

それぞれの該当箇所を抜粋すると、

「なぜ、この本を書いたのか?」

と問われたら、私はこう答えます。

すべての働く人が「いつでも転職できる」という交渉のカードを持てば、結果、今の職場も絶対に良くなると確信しているから。

(中略)

私はすべての働く人が「いつでも転職できる」という交渉のカードを持てたとしたら、この国は変わると本気で信じています。

(「転職の思考法」P.240)

働く個人に「いつでも転職できる」という意識が芽生えれば、ブラック企業や理不尽な上司の下で働く人は「いつでも辞めて他の会社に移ればいい」と考えるようになります。

実際に社員が一斉に退職することになったら、組織が崩壊するので会社は困ります。(中略)結果的に、パワハラやセクハラなどが劇的に減少するのではないかと予測しています。

みんなが我慢しなくなれば、組織は健全化し、より風通しが良くなるというポジティブスパイラルに入っていくのです。

(「転職2.0」P.256)

根底にあるのは、転職=悪という図式によって、「転職できずに我慢している個人」と「それを逆手にとって組織改善に取り組まない企業」が日本をだめにしているという考え方。僕自身は日本を代表する最高のメガベンチャーで働いていたので、「退職を交渉のカードにする」なんてことは考えたこともありませんでした。

しかしながら、日本の多くの企業・働く個人においては、そういうこともあるかも知れませんし、何より労働力がより流動化され自由なタレント獲得競争が適切な形で繰り広げられるようになれば日本経済はたしかに良くなると思います(転職支援企業によるオーバープロモーション戦争や価格のつり上げ戦争とかにならなければ)。

痛烈な大企業批判とベンチャーへのお誘い

「転職の思考法」のターゲット読者とメインメッセージ

上記の共通する考え方もそうなのですが、読み込むうちに本書のターゲット層とメインメッセージが見えてきました。整理するとおそらくこんな形になるでしょう。

□ターゲット読者イメージ

  • 20代〜30代:後述する40代から武器になる人的資産に関する記述がほぼない
  • 大手企業で働く会社員:否定の対象になっているのが成熟産業、またはブラック企業
  • being人材:「何をするか」に重きを置く1%のto do型人材とは対極な、「どんな人でありたいか、どんな状態でありたいか」を重視する普通の人

□メインメッセージ

20-30代の技術資産も人的資産もない大企業で働く若者よ!
手遅れになる前に成長産業に自分をピボットさせないと、いずれ身を滅ぼすぞ!

このように整理・要約できると思います(技術資産・人的資産については後述)。

北野さん自体は温和なキャラクターだと印象を受けておりますが、心の奥底にグツグツと煮えたぎるWHATを持たれている方なんでしょう(共感が持てます)。小説の中の強いキャラクター・黒岩にその考えを代弁させています。一部抜粋してみましょう。

黒岩「組織にいると、給与は当たり前のようにもらえるものと勘違いする。そして大きな会社にいる人間ほど、実力以上の給与をもらっていることが多い。その中の多くの人間は、会社が潰れそうになったり、不満があると、すぐに社長や上の人間のせいにする。(中略)(そうな人間にならないためにも)金を稼ぐ力を身につける。一生下僕として行きていくのか。上司から言われたことにイエスだけ言い続けて、いつか、しがらみから開放される日を待つのか?(中略)君が『自分の人生を選ぶ力』を得るまでは、永久に自由になどなれない」(P.76)

こういう痛烈な批判を届ける時に小説というフォーマットはなるほど良いな、と参考にさせてもらいつつ、どストレートなメッセージは痛快ですらあります。

そしてここで言う『自分で人生を選ぶ力』こそ、本書のメイントピックであるマーケットバリューを高める力なのであり、本書曰くマーケットバリューを高める方法とはすなわち、マーケットバリューが高まるような成長産業=ベンチャー企業のような成長企業に身を置くことなのです。

上りのエスカレーター=成長産業に身を置く

本書ではマーケットバリューを高めよ、と盛んに書かれているのですが、つまるところ最もインパクトのあるマーケットバリューの高め方は「伸びる・伸びてる産業に自身の身を置くこと」に集約されます。いろいろな確度から本書ではこのことを証明しているのですが、簡単に整理すれば本当にこれがメインメッセージになるでしょう。

実際、本書の最終盤、キャリアコンサルタントの黒岩が主人公・青野に投げかけるメッセージは、

伸びている市場に身を置け。そのうえで自分を信じろ、青野よ(P.235)

です。

この考え方には僕も100%同意で、昔からサイバーエージェントの藤田社長が言っているセリフが思い返されます。本当に藤田さんは昔から本質を突いていたんだなぁと今更ながらに気付かされることが多いのですが・・・

僕自身、インターネット産業という成長産業に15年ほど身を置き、サイバーエージェントという成長企業(しかも創業から一度も売上を落としたことがない)で働いてきました。その観点から成長産業に身を置くことのメリットを整理してみると、

□成長産業で働くメリット

  1. 先人がいない:自分が第一人者になれるチャンスがある。その領域の「第一想起」に自分の名前があがる=市場価値にクリティカルヒットする。
  2. 上が詰まっていない:成長とともに新しいポジションや組織がどんどんできるので、上が詰まって出世できないということがない。
  3. レア度の高い経験を積むことができる:事業立ち上げなど、普通なら20代で回ってくるわけがない希少性の高い仕事が回ってくる。
  4. 何より面白い:これは改めて思いますが、人は「伸びている」のが大好きなんですよね。逆に「停滞」はストレスでしかない。仕事を好きになれることは、何事にも代えがたい。

こんな形で整理できると思います。したがって僕も北野さんと同じく、大企業からベンチャー企業へ転職してくることをおすすめ致します(というのが本ブログの趣旨でもある)笑

マーケットバリューを高める3つの軸

本書の前半ではマーケットバリュー=技術資産✕人的資産✕業界の生産性、というクリティカルな公式が提示されています。これを後に続く文章と合わせて整理すると以下のようになります。

■マーケットバリュー=技術資産✕人的資産✕業界の生産性
 ①技術資産=専門性✕経験
−専門性(20代)=職種やスキルに該当する概念。
−経験(30代)=職種に紐付かない技術、であり、他社でも応用可能なもの。部長の経験、子会社社長の経験、など。
 【パンチライン】20代は専門性を高め、30代は経験で勝負する。

 ②人的資産=いわゆる人脈、ネットワーク。
−40代は人的資産で勝負する
−ちなみに人的資産に関する記述はほぼなく、その意味でも本書のターゲットは20-30代だと推察される。

 ③業界の生産性
−もともと生産性の高い業界
−これから伸びる産業

個人的には一部を除いて、とても納得感のある主張だと感じました。伸びてる産業に身を置き、若いうちは人脈構築などにとらわれずに一心不乱に仕事をして専門性と経験を蓄えていく。

この辺りは北野さんも主張したいところなのだと思うのですが、大企業批判同様に強いメッセージが多く書かれています。

20代のうちはとにかく専門性で勝負しろ。なぜなら、経験は誰にでも回ってくるものではないからな。(中略)専門性のある人間にこそ『貴重な経験』が回ってくる、こういう構造なんだ。

君だけが持っているスキルは一気に価値が出るからこそ『レア度』にこだわれ。そして『専門性』は誰でも学べば獲得可能であり、年を取るほど差別化しづらくなる。一方で『経験』は汎用化されにくい。

君のような普通の人間こそ、『経験』で勝負すべきなんだよ。というのも、マーケティングやプログラミングといった『専門性』で上り詰めるには、明らかにセンスが必要だ。(中略)しかし『経験』はどこを選ぶかというポジショニングの問題だ。

実際、この「20代は専門性、30代は経験、40代は人脈」という整理はとても強力で、多くの就活生や第二新卒くらいの若い方と話したり面接したりしていると、よく話に上がるくらい浸透している考え方になっています。

そうであるがゆえに、スタートアップで働く若者にには、この枠組に囚われてほしくないな、とも思うのです。

スタートアップにおいて「20代は専門性、30代は経験、40代は人脈」は本当なのか?

おそらく成熟した大企業で働いているのであれば、「20代は専門性、30代は経験、40代は人脈」は正しいのだと思います(働いたことがないのでわからないけど)。

ただスタートアップで働く場合はこの限りではない。北野さんは「専門性のある人間にこそ『貴重な経験』が回ってくる」と書かれていますが、スタートアップにおいて「貴重な経験」が回ってくるのはこの限りではありません

経験について、サイバー藤田社長はこのように書いています。

複雑怪奇なビジネスの世界で、トータルで見たときの、
一番シンプルな競争ルールは、経験の質と量

より多くの経験を集め、価値ある希有な経験を得た
(コレクションした)人が競争優位に立つと考えます。

学業で鍛えてきた頭脳を駆使するのはその後。

①先ずはがむしゃらに経験を積んで
②その経験を基に戦略を立てる。

①と②の順番を間違えると先に進めない。

例として挙げたのが、もし仮に
「ベトナムへ2泊3日で行って事業の基盤を築いてこい」
と突然会社から言われたら?

①すぐに迷わずベトナムに行き、がむしゃらに動く。
②二回目に、一回めの経験を基にベトナムにおける
効率的な仕事のやり方を考える。

僕も多くの場合、未だにこの藤田さんの考え方が正解だと思っていて(エンジニアやその他専門性で勝負できる場合は別)、どちらかと言えば、

突然来たレアな経験の機会に対して、
真正面から臆せずスピーディに向き合うことができるか?

こうした心的スタンスのほうが専門性よりも20代では重要だなと思います。実際、サイバーエージェントの子会社社長という仕組みはこの考え方になぞらえたものだと思いますし、一定以上の成功を収めていると思います。

ちなみに「ベトナムに行け」と言われて、ベトナムに実際に行き、そのレアな経験を生かした人材こそ、僕の同期であり時価総額約1000億円のマクアケ社の中山亮太郎だったりもします。

いいベンチャーを見極める3つのポイントに対する疑問

その上で、北野さんは良いベンチャーの見極め方も提示してくれています。抜粋すると、

  1. 競合はどこか?そして競合「も」伸びているか?
  2. 現場のメンバーは優秀か?(ベンチャーの経営陣は優秀であるのが当たり前だが、他の社員も優秀か?
  3. 同業他社からの評判は悪くないか?

この3点。

基本同意ではあるのですが、②について少し僕の見解を書いておきたいな、と思います。

経営陣が成長していて、現場のモチベーションが高い会社を選べ

これが僕の考え、です。

まず「ベンチャーの経営陣は優秀であるのが当たり前」とは限らないと思うのです(笑)基本ベンチャーですから、経営者も発展途上。「優秀」になるべく日々成長しているタイミングです。そういう意味で、「優秀である」前提で見極めるのではなく、きちんと「成長しているか」を見極めていきたい。

また優秀ではあるが、「上場ゴール」を狙っているような人も少なからずいる気がします。なんでこのモデルで上場?という企業や、上場後の資金の用途イメージが曖昧な企業は、経営陣が優秀でもその後の発展可能性が低いと思うので、この辺りはよく見たほうがいいと思います。

続いて現場、です。僕自身は「経営陣」がとても重要な判断軸だったので、メンバーとはほぼ合わずに転職を決めたのですが、もし見るとすれば「現場が優秀かどうか」よりも「現場のモチベーションは高いかどうか」を見極めるべきだと思います。

能力は育てることができますが、モチベーションはなかなか難しい。自身も高い志を持ってスタートアップへ転職するのであれば、一緒にビジョンを実現するためのモチベーションを共有できる仲間と一緒が良い。能力は後からどうとでもなると思います。

なんで「現場はモチベーション」だと思います。

まとめ:何より心に響く元Google日本法人社長・村上さんの言葉

以上、年齢も近いので、本書を通して北野さんと知的バトルを繰り返しながら整理してきました。いつかぜひ直接お話してみたいな、直接学んでみたいな、と思ってます。

本書の最後に、ワンキャリアの対談記事の内容が抜粋されていました。北野さんと元Google Japan代表の村上さんの対談です。ちなみにこの対談素晴らしいのでぜひ読んでみてください。

(優秀な人材は)勿論最終的には「お世話になりました」って転職することになるんだけどさ。在籍しているときはさ、必死になって会社という『みこし』を担いでるわけでしょ。辞めるまではさ、一生懸命、会社を担いでくれる人材なのよ。でね、反対に、一生この会社にしがみつくぞ、みたいな奴はさ、おみこし担いでいるふりして、ぶら下がっているわけよ。人事部が大事にしなきゃいけないのは、ぶら下がっているやつじゃなくて、もしかすると3年後にいなくなるかもしれないけど、今必死に担いでるやつなんだよ。ほんとに担いでくれるやつだったら数年勤めてくれたら御の字じゃないの? そういうふうに人事部も考え方を変えないと。

個人としては、シニアの仕事の重要性を踏まえて「5-10年のスパンで勝負したい」と思っているのですが、そう考えているからこそ、ジールスという神輿・清水という神輿を全力で担ぐ事ができていると思います。また人を雇う経営層としても、この考え方は大事。

スタートアップへ転職する皆様。もしかしたら数年後その会社を離れることになるかも知れませんが、ぜひそれまでの間はフルコミットしてみてください。その経験こそが結果的にマーケットバリューってやつを引き上げてくれると思います。

また「会社にしがみつくぞ!定年まで逃げ切るぞ!」と万が一思っている方。おそらくそのスタンスでは10年後も怪しいかも知れません。ぜひ本書を読んで、一度自分の技術資産、人的資産、自分が勤める企業の(将来の)生産性を見極めてください。きっと何らかのアクションにつながるはず。

それでは、本日もありがとうございました。明日も良いスタートアップライフを!